2008年7月26日土曜日

茨城県博,クマ展

家族と茨城県立自然博物館に行ってきた.博物館としては「書き入れ時」のこの時期の特別展として,恐竜でも昆虫でもなく「森のアンブレラ種,熊展」をもってきたあたり,渋いなぁと思いつつ.

すばらしかったのは世界のクマの剥製標本の展示.10種くらいあったかな.とても綺麗な標本で,しかもショウウインドウ型に並んでいるのではなく,1頭ずつ独立したケースに入っているから,周り中から覗き込んで観察できる.これがよい.種類によって足の太さや長さのバランス,ツメの長さ,口の形などがずいぶん違う.主なエサの説明などをみながら,じっくり標本を眺めたのは実に楽しかった.パンダの「ランラン」の標本も.子供の頃,人ごみ越しに一瞬だけ見たランランをこんな間近でじっくり見られるなんて!

綺麗な標本を見せる,という点で,茨城県博はレベルが高いと思う.クマが食べる植物の腊葉標本もとても美しく,見入ってしまった.展示内容に注文をつけようと思えば,「アンブレラ種」というテーマの掘り下げが足らないんじゃないかとか,思いつくことはある.しかし,難しいことはともかく,綺麗で楽しい展示を通して,クマという大きくて美しい動物の存在を見た人の記憶に刻むということでは成功していると思った.

クマが新聞やテレビニュースに登場するのは,人間に危害を与えたときがほとんどだ.都市生活者にとって,「クマ」に対する認識は,遠いところにいる何やら恐ろしい存在としての認識と,可愛らしくデフォルメされたキャラクターとしての認識しかなくなって,動物としてのリアルな存在という認識が空白になってしまうのではないか.「モノではなくイキモノへの認識」とでもいうのか,自分との類似点・相違点を通して他者として認識するような捉え方ができなくなってしまうのでは,という懸念.

クマを人の命や農業を脅かす「有害鳥獣」という視点でしか見られなくなったら,それはおそろしいことだと思う.日本でのツキノワグマの個体数も十分に把握されていないし,生態系における役割もほんの一部しか分かっていないにも関わらず,「大量出没」の年だった2006年など,全国で4,200頭のツキノワグマが捕殺されている.このような捕獲は日本の個体群の存続性を脅かしかねない(→日本クマネットワーク).この現実を問題と感じることができるかどうか.

まずはかっこいいクマ標本をじっくり見て,リアルな存在としてクマを意識できるようになることは大事だと思う.「恐れる」だけでなく「畏れる」気持ちがあると,付き合い方も変わるのではないか.

ぬいぐるみの「くまちゃん」大好きの2歳の息子は,リアルなクマをどう理解したんだろう.気になるなぁ.