2008年12月15日月曜日

しごと

修士論文の手助け、学生さんの新しい実験のスタートアップ、今週の授業の準備、編集を担当している論文のハンドリング、月末締切の本の原稿執筆、卒業生の論文の修正と再投稿、共同研究の分担作業、自分の論文の執筆。いま目の前にある仕事の優先順位はこんな感じ。最後の二つを除いて今週中になんとか目処を立てたいのだが、時間が足りないなぁ。

忙しくないといえば嘘になるけれど、でも、今の立場は恵まれていると思う。組織運営のための「雑用」はとっても少ないし、授業や実習も日本の一般の大学教員に比べて少ない。うちの大学は学生に対して教員が多いし、教員をバックアップする体制も、充実している方なのだろう。別の大学で働いている友人と比べても、自分の裁量で仕事を決められる範囲が大きいと思う。

贅沢な悩みをいえば、今の立場が身の丈にあっていないように感じることか。
ちょっと大きな殻に入ってしまったヤドカリのような気持ち。

2008年12月9日火曜日

12月のフィールド

先週の月曜日は霞ヶ浦の浮島湿原に行き、屋根材のための萱を収穫する地元の方たちとの打ち合わせをした。
浮島ではヨシではなくカモノハシやチゴザサが萱として刈り取られる。これらの植物は「シマガヤ」と呼ばれ、ヨシやススキよりもずっと高級なのだそうだ。実際に文化財に指定されている古民家や神社の屋根などに使われている。

浮島湿原の中でも「シマガヤ」は局在して分布している。地元の方々によると、昔はもっと広い範囲に生えていたのが、最近ではずっと少なくなってしまったそうだ。地元の方は、「シマガヤ」減少の原因は、霞ヶ浦の水位が高くなったことと、野焼きを中止したことにあると考えている。また水位が高いと刈った萱が濡れてしまうので、とても作業がやりにくいとのこと。

霞ヶ浦の水位は、今年も「実験」として冬場に高く維持されている。これが植生帯の侵食や植生の種多様性の低下を招いている可能性がある。冬場に高められた水位は、水の需要が高まる4・5月ごろには下げてしまうのだから、この高い水位は利水のために「本当に必要で」上げているわけではなく、不合理なものに思える。とはいえ、水位を直接管理している行政に一面的な責任があるものではない。利水権者の判断が、現実の問題に対応したものになっていないことに問題の根幹があるようだ。計画をたてた時点では認識されていなかった問題がわかってきたのだから、柔軟に方針を変える方が、広く受け入れられる判断だと思うのだが。

この日は、来年度から浮島湿原で研究をする予定のW君といっしょに行き、挨拶をさせてもらった。「シマガヤ」が分布している場所は植物の多様性が極端に高い。その理由として、刈り取りや野焼きなどの管理の重要性を示す研究を計画している。水位の上昇管理や野焼きの中止の背景には「研究者」「生物学者」の姿がみえるから、地元の方からは最初は不信感をもたれていたようにも感じたが、丁寧に説明をしたところシマガヤの生育に必要な条件を明らかにする研究でもあることを理解していただき、今後の協力を約束してもらえた。研究開始までにはまだいくつかの機関・主体と相談する必要があるが、まずは地元の了承が得られて一安心。

土曜日は久々の山行で群馬へ。その山にしかない絶滅危惧植物があり、私はその保全のための研究と実践をはじめて12年になる。まだまだ困難は多いが、地元の強力な協力者のおかげで、前年までの教訓を活かして、毎年少しずつ進んだ活動をしているので楽しさがある。ただ現実は厳しい。林道の工事がひたひたと接近している。林業の振興を制限している要因は林道の不足ではないはずなのに。

水位改変と林道工事。「自然再生」が謳われる21世紀になっても、20世紀にたてられた計画で、自然の喪失が進んでいる。