2009年4月29日水曜日

野外調査の日々

浮島湿原での2日連続のフィールドワークが終了。270本のカモノハシの茎にマーキングして直径と長さを計測。春先の野焼きや刈取りが成長に及ぼす影響を調べる。

本当は別の種についても解析する予定だったが、いろいろ考えて、カモノハシ一種に注目して徹底的な調査をすることにした。いつも、盛りだくさんの計画をたててフィールドに行き、現場で内容を取捨選択する。また机の上では考えていなかったことを急に追加する。面白い現象に気づいたときが調査のベストタイミングだと思っているので、「これは」と思ったら手を動かすことを躊躇わないようにしている。

自分ではこれに慣れているけどいっしょに仕事をする人、特に学生さんには負担になるかな、と心配していた。しかし、留学生のW君にあっては杞憂のようだ。朝改暮変する私の提案に納得がいくまで質問して考えを整理してくれる。そして納得したら徹底的にやり遂げる。フィールドの回毎に確実に成長していて、本当に頼もしい。

↑湿地に同化して調査するW君。今夜は目を閉じるとカモノハシの茎が浮かぶことだろう。

2009年4月28日火曜日

東関東自動車道身水戸線

東関東自動車道水戸線の計画が「整備計画」に格上げされ、事実上のゴーサインが出されたという。昨年度卒業したIさんと歩き回った湿地や林が道路で分断され、湖と水田と段丘と海岸の景観が失われることだろう。

景気対策のためなら何をやっても良いというのか。一部の人が一時的に経済的に潤うために、将来の世代がその恵を享受できるはずだった自然を未来永劫失う。前世紀に散々繰り返した失敗を、まだ繰り返すというのか。

2009年4月27日月曜日

環境税の事業で

 先日訪問した某県での話。県の「環境税」を使って行われた「里山管理」の事業で、造園業者が作業に入り、下草から枯葉・落枝まですっかり採集され、林床が丸坊主にされてしまったとのこと。整備後の林を見せてもらったが、「芝生に樹木が生える都市公園」のような景観にされてしまっていた。
 せっかく環境税を使う事業なのだから、生物多様性保全にとって意味のある内容でやって欲しい。そのためには、野生の生き物を良く知っている人が計画し、監視する必要があるだろう。
 このような問題は全国ではけっこうあるかもしれない。

緑の学術賞

いろいろとお世話になっているYさんが「緑の学術賞」を受賞した。内閣府のホームページにとても魅力的な紹介文が掲載されている。Yさんの進めている多数の仕事の一部には私も関わらせてもらっているが、Yさんを尊敬する第一の理由は、この紹介文に一端が触れられているような、生き物と進化への深い理解と愛情である。

ようやく

某国際誌に投稿していた霞ヶ浦のアサザの保全のための研究と実践のミニレビューが、minor revisionで帰ってきた。投稿後もいろいろあってかなり時間がかかっただけに、掲載の見通しが立ったことはかなり嬉しい。保全の研究と実践が強くリンクして進められた実例、かつgeneticな研究とdemographicな研究がリンクして進められた実例、としてけっこうアピールできるんじゃないかなと自分では思っている。

内容は主に研究室でアサザの研究に打ち込んでくれたUくんとTくんの成果(少しだけ私の成果)をまとめたものだ。さらに遡ればアサザの研究をはじめたMさんやKくんのおかげで成り立った論文である。尊敬する友人・先輩である。もちろん、これらの全てをマネージしてきたのは私の師匠であり、私は皆さんの手伝いをしたに過ぎない(思い入れは強かったけれども)。

これが出ればアサザの研究については一区切りという感じかな。しかし実践はそうはいかない。霞ヶ浦のアサザはいまだにいつ絶滅してもおかしくない状況にある。さらに保全の実践を強力に進めた弊害で?、何かしようとしても向かい風が吹くことこともある。しかし「種を絶滅させない」ことを最優先に、これからも自分の立場で出来る活動を続けていこうと思う。

2009年4月24日金曜日

スゲの春

W君と浮島湿原へ。
ちょっと予定変更を迫られる事態が発生。対照区としていた場所の植生がおおきく改変されてしまった。W君も落胆の様子。でもこんなときに計画をどう変更するかがフィールドワーカーの腕の見せ所ですぜ。

いろいろなスゲが花盛り。アサマスゲが思いのほか多くてほっとした。ウマスゲはここ数年、湿原内で増えている気がする。ヌマアゼスゲも開花。いろいろな種の実生発生もピークで、私らにとってはもっとも気ぜわしい季節になった。

2009年4月19日日曜日

小貝川観察会

自然友の会(常総市)の小貝川での観察会に家族4人で参加。
ヒキノカサが開花ピーク、エキサイゼリが咲き始め。ヒメアマナの結実確認。

驚いたのは堤防のノヂシャ(外来種)の大群落。ノヂシャは以前も見かけたがそれほど気になる存在ではなかった。しかし今年は堤防にはいたるところにあり、10m四方くらいの純群落をあった。河川の堤防は、(今では貴重な)「草地環境」として在来の動植物の大事なハビタットである。小貝川の堤防はスミレ類の種類も多く、良い場所も多い。ノヂシャに抑圧されている種もあるのではないか。

堤防は管理のために年に数回草刈がされるが、そのタイミングや方法(草刈機も昔と今とではだいぶ違う)もいろいろである。管理方法と在来種・外来種の挙動の関係は大事なテーマだろう。

子供たちはよく歩いた。エライエライ。

2009年4月18日土曜日

鬼怒川でシナダレ駆除とタネまき

鬼怒川で「うじいえ自然に親しむ会」の方々、親しむ会の呼びかけで参加した市民の方々、国土交通省の方々といっしょに、シナダレスズメガヤの駆除とカワラノギクの播種をした。こちらからは私の実習に参加している大学院生11名を引き連れて。

年に何度か駆除作業をして密度を抑制し、あわせて多少の基質攪乱をすることで、なんとか生育環境を維持している。いまのところ、鬼怒川のカワラノギク個体群は、かなり「手作業による管理」に依存して命脈をつないでいる。

2009年4月14日火曜日

Seed Ecology

2010年に開かれるSeed Ecologyの第三回国際学会の案内が来た。
ウェブサイトが開設されたそうだ http://www.seedecology3.org/

3年に一度開かれているこの学会、ギリシャで開かれた第一回に参加したが、これまで参加した国内外の学会でダントツ一番に楽しかった。もちろんその名のとおり生態学の国際学会なのだが、参加者はみんな「タネ好き」。学会の案内もプログラムも会場の飾りつけも、もちろん発表内容も、細部までタネへの愛が貫かれていた感じ。新しいウェブページも全てのページにタネの写真が貼り付けられ、そこにポインタをおくとそのタネの植物写真がでてくるという凝りよう。

また行きたいなー。

2009年4月8日水曜日

シカ柵設置

4月6-8日研究室のI君Y君と、今年から新しいお仕事をはじめる豊岡に行ってきた。

放棄水田に防鹿・防猪柵を設置するためだ。シカはあちこちで増えて問題になっていて、管理も検討されている。そのときシカによる「被害」だけでなく、シカが現代の生態系の中で果たしている役割をちゃんと評価しておかないと、偏った議論になる。

ここのフィールドでは、シカがヨシみたいな大型植物を採餌したり、土壌攪乱をしたりすることによって、攪乱依存生物のハビタットを作っているという仮説を検証する。

シカのことを考えるといつもヒシ・オニビシを思い出す。どちらも在来生物で、それを利用する文化も存在する(消えかかっているけれども)。でも最近の人間活動の変化によって増加し、邪魔者扱いされることが多い。このような生き物の生態系の中での役割を知っておきたい、と思う。

柵の設置はとんでもない重労働だった。地元の方(一日中手伝ってくれた方も!)、豊岡市役所の方のお手伝い、初日の業者さんによる指導がなかったら3日間で5基の設置は不可能だった。

今後の目安として:作業をよく把握した3人がフル回転で作業をして5×5mの防鹿・防猪柵を設置するのに3時間。
ハリガネの緊張の仕方、湿地での杭の打ち方、etc. また一つ土木建築スキルが向上した。