2013年3月24日日曜日

妙岐の鼻の春

きょうは関東の湿地の「生物多様性ホットスポット」、霞ヶ浦湖岸の妙岐の鼻(浮島湿原)で調査をしました。この場所の植物の存続のカギを握るのは、水質と「火」です。妙岐の鼻の火入れは2006年以降、市民からのクレームがもとで停止されましたが、2009年からは、「試験的」という注釈つきで、とても小規模に再開。徐々に規模を拡大する相談を始めていました。そのような中、2011年に原発事故、放射性物質の拡散リスクという新たな課題も生じました。

地域になるべく多くの判断材料を提供できるよう、ぼくも、火の効果の検証(優秀な学生さんのおかげでずいぶん成果が出た)、安全な火入れの方法の検討(小貝川や菅生沼での火入れを通じて協力体制ができた)、放射性物質の拡散リスク評価(土壌物理・水文学・植物整理の専門家に相談したり何を測定したらよいか教えてもらったり)などに着手していましたが、そんな矢先、今年は1月末に不審火で湿原の大半が焼けました。幸い、延焼被害もなく、役所にも「久しぶりだねえ」という声は届いたけど苦情はなかったとのことでした。災い転じて・・ではないですが、ぼくも、この機会にしっかりモニタリングしたいと思います。

野焼きを何年も停止してしまうと再開が難しくなります。理由は3つ。①樹木が成長したり枯草がたまりすぎたりして火の制御が難しくなる。②地下茎や埋土種子からの再生ポテンシャルが低減する。③火入れを実行する人々の連帯と安全確実な火入れの技術が失われる。ぼくの勘では、3年間間を開けたら要注意。

野焼きは、短期的にみるとリスクが大きい割に受益者がとても少ない、しかし長期的にみると、伝統的な文化や生物多様性といった次世代への財産を維持する上でとても重要。昔とは違う枠組みで、維持していくべきではないかと考えます。

ぼくは野焼きを「お祭り」にできたらいいと思っています。妙岐の鼻、渡良瀬遊水地、小貝川、菅生沼など、火入れをめぐって議論がある関東の湿地の中で、小貝川だけほとんど目立った反対もなく継続できているのは、主催されている先生のお人柄に加えて、同じ河川敷で「どんど焼き」のお祭りがあるからではないかと思います。「野焼きを維持する現代的枠組み」として、行政を動きやすくする「指定」や条例も有効ですが、最後は「お祭り」を目指したらいいんじゃないかと思っています。観光客に向けて演じるお祭りではなく、地域で協力して段取りをして、大きな火で高揚感をあおられながら、結束を高める儀式。



妙岐の鼻の管理の問題は、野焼きだけではありません。萱を刈り取って利用する活動は、文化の維持のみならず、絶滅危惧植物の維持にもプラスに働く、重要な役割を担っているのですが、近年、刈り取った萱を運び出すのに重い機械を使うようになり、その轍が湿地の植生に強く影響しています。重さをかけてもダメージが少ない浜堤上をなるべく通るようにするなど、工夫していただけるとありがたいのです。

もちろん地元の方からも研究者に言いたいことがあるでしょう。そんな意見交換が、できる雰囲気や場を作りたいなあと思っている次第。



関連の文献
野副健司・西廣淳・ホーテス シュテファン・鷲谷いづみ (2010) 霞ヶ浦湖岸「妙岐の鼻湿原」における植物の種多様性指標としてのカモノハシ.保全生態学研究.15: 281-290.
Wang, Z., Nishihiro, J. and Washitani, I. (2011) Facilitation of plant species richness and endangered species by a tussock grass in a moist tall grassland revealed using hierarchical Bayesian analysis. Ecological Research. 26: 1103-1111.
Wang, Z., Nishihiro, J. and Washitani, I. (2012) Regeneration of native vascular plants facilitated by Ischaemum aristatum var. glaucum tussocks: an experimental demonstration. Ecological Research. 27: 239-244.