2013年3月25日月曜日

霞ヶ浦のヨシ原の侵食

きのう行った霞ヶ浦についてちょっと別の話題。

近年、霞ヶ浦の湖岸にあるヨシ原は、年々面積が小さくなっています。どんなふうに?ヨシ原の湖側の端に行くと、下の写真のように、ヨシを植木鉢に植えたように、丸く高密度に稈が生えた「株立ち状態」になっています。これは、ヨシが生えていた地盤の砂が失われ、ヨシの地下茎どうしが絡み合って辛うじて立っている状態です。このような「株立ち状態」になると、強い波が来た時に、株ごとボッキリと折れて流されてしまいます。そして、新しく前線にさらされたヨシの株もとの砂が失われ始めます。

霞ヶ浦ではこのような「侵食によるヨシ原前線の後退」が全域で進んでいます。複数の地点での測量結果を整理したところ、平均すると年間70㎝の速度で、前線が後退していることがわかりました。
水辺の植生は、鳥類や湿地の植物が生育する場になるだけでなく、コイ科の魚の産卵場所、エビ類の生息場所になるなど、さまざまな役割を担っています。このままヨシ原の衰退が続けば、生態系の様々な側面に不具合が生じ、漁業をはじめとする産業にも影響が及ぶと考えられます。
このような侵食が生じる理由は2つ考えられます。①高い水位を長期間維持するようになっているため、②湖内で砂利や砂の採掘を続けているため、です。①の問題については、これまで複数の角度から検討し、いくつか論文を書いてきました。昨年はそれらの結果をまとめ、水位管理方針の再検討の必要性を訴える「意見論文」も、「保全生態学研究」に発表しました。現在の霞ヶ浦では、ヨシ原の侵食をさらに加速するような「水位運用試験」が進められているからです(しかも「環境との共存を模索するため」という目的で!)。

原著論文を書いて、意見論文を書いて、国土交通省の事務所に説明に行って、とやってきましたが、解決の糸口は今のところ見えません。水位を高くする管理を行うのは、利水のためです。湖沼の環境管理に責任をもつ国土交通省と、水の利用の権利をもつ都県が協力し、水の利用の面でも自然環境の面でも最終的な影響を受ける(次世代への責任をもっている)地域の方々を中心に据えた相談の場を設けて欲しい。科学は「こんな管理をしたらこんな影響が出る」といった情報を提供するお手伝いができますので、なるべく使って欲しいなあと思います。


関連の日本語文献
西廣淳 (2012) 霞ヶ浦における水位操作開始後の抽水植物帯面積の減少.保全生態学研究, 17: 141-146.
 西廣淳 (2011) 湖の水位操作が湖岸の植物の更新に及ぼす影響. 保全生態学研究, 16: 139-148.
西廣淳 (2012) 霞ヶ浦における国土交通省による「水位運用試験」への意見. 保全生態学研究. 17: 279-282.