2014年3月23日日曜日

霞ヶ浦導水事業の検証報告書案へのコメント

利根川・霞ヶ浦・那珂川をパイプラインで結ぶ「霞ヶ浦導水事業」は、ダム事業の一つとして「事業検証」の対象となっています。国土交通省による「検証に係る検討報告書(素案)」への意見公募期間は終わってしまいましたが、これから検証結果とそれへの意見が公表され、継続の是非を議論する段階に入ります。

私は下記サイトにも掲載されている「霞ヶ浦導水事業の検証に係る検討報告書(素案)」へのコメントとして以下の内容を提出しました。
http://www.ktr.mlit.go.jp/river/shihon/river_shihon00000163.html

以下が提出したコメントです。


霞ヶ浦導水事業の検証に係る検討報告書(素案)へのコメント

2014年3月12日
東邦大学理学部 西廣淳

・異なる水系間の連結は、一方に侵入した外来種が他方に分布拡大するリスクをもたらす。外来種の中には農業や漁業に悪影響をもたらすものも多い。たとえば霞ヶ浦や利根川水系に近年侵入している外来植物ナガエツルノゲイトウやミズヒマワリは、強害雑草化し水田農業に被害をもたらす。また霞ヶ浦・利根川水系に蔓延しつつあるカワヒバリガイは、水路や水門等の機能不全をもたらす。今後、新たな外来種や現在認識されていない魚類への病原となる微生物などの移入により、社会・経済的な損失が生じる可能性は否定できない。これらは、流域内の溜池の活用のような水系を連結しない代替案では発生しない導水事業固有のリスクである。生物移入による社会・経済的損失が生じるリスクを最小化するための予防的な観点に立った方策を検討すべきであろう。

・霞ヶ浦や利根川水系で蔓延しつつある外来種カワヒバリガイが導水のパイプラインや途中の施設の内部に大量に付着した場合、施設の機能に障害がでることが予測される。カワヒバリガイが施設に付着した場合の除去の方策やそのためのコストを検討する必要がある。

生物多様性に与える影響の評価が不十分である。導水に伴う環境改変(上記した生物移入だけでなく、工事に伴う改変や水質・水温が異なる水が流入することによる環境改変を含む)が地域の生物多様性・生態系にもたらす影響を予測し、代替案と比較する必要がある。導水により異なる水系を連結することは、地域の生物相や遺伝構造の改変をもたらす可能性が高い。報告書(素案)では表4.2-24、表4.3-63、表4.4-52において「環境への影響」が言及されているが、そこでの生物への影響についての記述はきわめて抽象的であり、代替案との比較ができる内容ではない。河川水辺の国勢調査など基本的な生物情報は存在するので、それらのデータを用いた解析を進め、具体的に検討して記述する必要がある。

・本資料からは利水参画者が提示した開発量の目標値の妥当性が判断できない。今後の人口や産業の動態予測を踏まえた妥当な予測になっているか検討するためにはより詳細な情報が必要である。資料で示された計画給水量を見る限り、直感的には過大評価と思われる値が多い。

・上記の通り、考慮すべきリスクやコストが十分に検討されておらず、また利水の目標についても疑問がある。本報告書からは、霞ヶ浦導水事業を、水質浄化と利水を目的とした事業として妥当であると判断することはできない。

以上