2009年2月14日土曜日

疑似科学入門


宇宙物理学者、科学と社会についての著作も多い池内了先生の本。
池内先生のかかれたものは、文章が読みやすいだけでなく、誤魔化しがないというか、読みながら疑問に思った点はからなず後で説明があるので、読後にスッキリした気持ちになる。この本もわかりやすくて面白かった。エセ科学の問題を考えたい人にはお勧めの一冊である。

この本で「疑似科学」は三種に分類される。第一種と第二種は、それぞれ占いや超能力のようなオカルトと、一見すると科学的な用語を身にまとった根拠の不確かな言説や商品(健康食品など)とであり、これまでもエセ科学として多くの人が論じてきたものであり、それほど目新しさはない。

この本の面白いのは面白いのは、従来の科学が扱いになれていない「複雑系」に関わる問題を要素還元主義のアプローチで解釈しようとすることからくる誤解・誤用・悪用を、「疑似科学」の一つとしていることである(本書中では第三種疑似科学と呼ばれている)。環境問題、電磁波公害、狂牛病、遺伝子組み換え生物、地震予知などの問題は、原因が複雑で、因子間の関係も非線形である。1+1が2とならないような関係がたくさん組み合わされている。このような複雑系の問題に対して、要素還元アプローチを押し通すことも、また要素還元的に理解できないからといって不可知としてしまうことも、どちらも科学的な態度ではないと喝破されている。

複雑系を扱う科学の進め方と、その成果を社会に対してどのように伝えていくかということは、私が保全の問題で社会と関わるときにいつもいつも気になっていることなので、「第三種疑似科学」の指摘は見事だと思った。

たとえば、湖での植物の保全の議論では「この植物は水質をよくしますか?」というようなことを良く聞かれる。「水質のよさとは?」という問題はさておくとしても、この疑問にはズバリ・スッキリとは答えられない。複雑系である生態系の状態を表す指標の一つである水質に対して、その構成要素の一つである特定の生物種が及ぼす影響は、状況依存、すなわち他種の構成や密度、物理環境条件によって変化し、場合によっては逆方向の影響をもたらす。複雑な機械を構成する歯車を一つ取り出して「この歯車は速いか?」と考えることはできないのと同じだ。だから、上のような質問をされると、どうしても「それは状況によります」とか「刈り取って持ち出しでもすれば局所的には浄化になりますが・・・」とか、いつも歯切れの悪い答えになってしまう。

このような問題に対する研究の進め方としては、その種の系への影響の仕方の状況依存性のあり方を明らかにすること、そしてそれらの事例を総合して共通するパターンを見出すこと、が適切だろう。複雑系を扱う研究は、どうしても複雑になるし、その結果もあまり単純には表現しにくい。しかし、どうしても、世間では歯切れの良い答えが歓迎され、複雑な回答は無視されがちだ。そこに疑似科学がつけいる隙があるのだろう。複雑な内容をいかにわかりやすく説明するか、これは技術を磨くしかない。

表現技術が十分に向上するまでは、わかり難いといわれても、バカ丁寧な言い方を貫いた方がよい。かつて、テレビの取材で、私の説明が回りくどいためディレクターから短絡的な言い方を強く求められ、うっかりそれに従ってしまい、とんだ赤恥コメントが放送されてことがある。それ以来、このことは教訓にしている。