2008年11月11日火曜日

五大湖のモニタリング

分担執筆する本の原稿を提出した.
この執筆のために,湖沼の生態系評価指標について少しまとめて勉強した.

生態系の状態をモニタリングするための新しい指標やその妥当性の研究のほとんどは,北米五大湖をフィールドとして行われている.五大湖ではカナダとアメリカの政府により総合的なモニタリングが行われており,その成果は2年ごとに開かれるコンフェレンスとその1年後に発行されるレポートで公開される.レポートは http://www.epa.gov/solec/ から入手できる.これがとーっても充実していて,非常に読み応えがある.

2007年に発行されたレポートでは67の指標を使って湖の環境の現状が解説されている.その中には水質や周辺の開発の状態だけでなく,環境変化に敏感なカエルの個体群サイズの変化とか,侵略的外来植物であるエゾミソハギの動向など,多くの生物指標が含まれる.

沿岸の湿地をことのほか重視している点も,五大湖は先進的だ.アメリカ・カナダの2国にまたがる機関であるThe Great Lakes Commisionが公表した沿岸湿地のモニタリングプラン(http://www.glc.org/wetlands/final-report.html)では,多様な分類群の生物についての指標を,300ページ近い資料で解説している.すごい迫力.

内容のレベルの高さも行政の力の入れ方もたいしたものだが,特に感心するのは,研究と社会のリンクの強さである.五大湖のモニタリングは社会的要請によるものだが,その実施と連動して,指標の開発や妥当性の検討に関する研究が活発化し,Journal of the Great Lakes Researchをはじめとする学術雑誌に公表される.その研究成果はその後のモニタリングに速やかに反映されているようだ.

欧米の保全生物学の論文や研究批評の文章を読んでいると,「evidence based conservation」という表現によく出会う.保全に関する(行政の)意思決定について,科学的根拠を重視しているということだろう.これと対になるニュアンスでpolicy driven conservationという表現が使われているのも見たことがある.「このような研究成果に基づいて判断しました」という姿勢と,「このように決められていたからその通りにしました」という姿勢の違いみたいな感じか.生態系管理のように確実性が低いことを進めるとき,前者の方が理にかなっている.