2009年1月1日木曜日

2008年を振り返って:研究

昨年は自分で進める新しい研究は小ネタだけで、主に論文執筆と学生の研究サポートが中心だった。

論文としては、10年近く保全の研究と実践に関わってきたカッコソウとアサザについての論文を一通り出版することができた(いくつかは印刷中)。またアサザについてはこれまでの研究と実践をまとめた英語の解説論文も投稿中である。ここまで研究と論文執筆が進んだのは、並外れた熱意をもってこれらの植物の研究と保全の実践に取り組んでくれた卒業生の方々のおかげである。特にカッコソウのOさん、アサザのUさんTさんは、すぐには論文につながらないような実践活動でも献身的に進めてくれた。後輩・学生ながら、保全生態学者として尊敬している。

アサザもカッコソウも、個体群はまだ安心できる状態では全く無く、今後もモニタリングと保全の実践が続くが、これまでに明らかになったことが一通り印刷物になったので研究者としては気持ちよく仕事ができる。

もう一つ、研究面で昨年進んだことは、自分が委員になって進めている印旛沼の植生再生の実験・実践の成果を、実際に調査をしたコンサルの方を第一著者とした論文にすることができた(正確には論文はまだ投稿していないので「できつつある」)ことである。

行政主催の委員会で研究者が調査や実践の計画を提案し、コンサルが実施し、報告書にまとめられる、ということは数多く行われている。しかし、研究者の肩書きをもつ人間が提案して結果を解釈しているからといって、それが適切であるという保障はまったくない。はっきり言って、世間には問題のある事例はたくさんある。事業の成否を判断できない調査デザインだったり、アセスやモニタリングで明らかに問題のある結果が得られているのに「顕著な問題は認められない」といった結論が明確な根拠もしめされずに導かれていたり。何か、事業や委員会の質を保つ仕組みが必要である。私も行政主催の委員会に入っている立場で何ができるか考えた結果が、事業の途中段階でなるべく多くの論文を書き、peer reviewの仕組みによって質を維持するというものである。

また別の問題として、コンサルの質の問題というのもある。昨今の「随意契約」に対する条件反射的ともいえる素朴な批判にも現れているように、行政による業者発注では「受注金額」ばかりが注目され、業者の質が十分であったかについての評価が適切に行われているとはいえない。私も以前の職場で業者選定の仕組みに触れたことがあるが、少なくとも、生態学的な調査の能力や取り纏め能力を評価して選べる仕組みは無かった。しかし、これはぜったいに必要である。その評価基準の候補として、過去に関わった事業で公表した査読付論文の内容や数、というものが考えられる。近い将来は、「関連した内容の業務についての論文業績」が業者選定の根拠として認められるようになるかもしれない。私はそのようになったら良いと考えている。

そこで私は、コンサルの方を著者とする論文を出版できるように、委員の仕事の一部として、本業以外の時間を使ってなるべくサポートすることにした。これを実現するには、十分な質のデータをとってもらわなければならないのは当然だが、それだけではなく、発注者である行政にも理解が必要である。このことは、最近数年間考えていたが、昨年はその最初の試みがほぼ実現したということで新しい年だった。