2016年7月20日水曜日

保全生態学の3つのパラダイム

保全生態学のパラダイムは、「自然保護の時代」「生態系管理の時代」「レジリエンスの時代」にわけると理解しやすいように思う。これらは誕生順にならべたが、前の概念が古いものとして否定されたわけではなく、後のものが付け加わってきた。その意味では、「パラダイム」という言い方は適切ではないかもしれない。「モデル」と呼べば無難だが、個々の研究ではなく研究の「流れ」に影響する概念モデルという意味で、パラダイムと仮に呼ぶ。

生物多様性の位置づけも変化した。自然保護パラダイムでの「生物多様性」は、漠然とした存在だった「急速に失われているもの」「残したいもの」を一言で表す便利なことばとして流布した。生態系サービスのバランスと持続性を考える生態系管理のパラダイムでの「生物多様性」は、サービスを生み出す源泉として位置づけられたが、同時に、生態系の機能・サービスの生成機構を研究するほど、生物多様性そのものの必要性はあいまいになるジレンマがあった。端的に言えば、生態系の機能にとっては、希少種よりも普通種の方が重要なのだ。たいていの場合。

レジリエンス重視のパラダイムでは、外力をうけてもやがて元の状態にもどれる生態系が目標とされる。レジリエンスの高いシステムがもつ一般的な性質についての議論も進んでいるが、「撹乱後の復活」という長期的な現象の探求は難しい。レジリエンスの高い生態系の姿は、順応的に追求することになる。

順応的管理には、出発点となる仮の目標の設定が必要となる。「長い年月をかけてその場所に残ってきた生態系はレジリエンスが高いのではないか」という仮説を元に目標を設定するのは、賢明な態度だろう。歴史的な産物である地域の生物相と生物間相互作用を重視する。これは生物多様性保全そのものである。

生物多様性は、一週回ってふたたび「目標」としての価値を帯びてきた。