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2010年6月28日月曜日

Seed Ecology 3 (聴講メモ)

ソルトレイクシティーで行われた、第三回種子生態学会議(Seed Ecology III, http://www.seedecology3.org/)に参加してきました。最高に楽しい4日間でした。

発表を聴きながらつくったメモを貼ります。自分用の備忘録なのでわかりにくいと思いますが、興味のある方向けの手がかりとして(かなり少ないと思いますが・・)。そのうち要旨集(各発表1-2頁)が上記ウェブサイトで公開されると思いますが。

全体としては古典的テーマを踏襲した発表が多かった印象。restorationがらみの野生植物の種子保存・発芽条件の検討研究が多かったのが特徴か。これについては色々と思うところがあったので、また別の機会に書こうと思います。

6月21日 進化学的話題と生理学的話題を中心に

クイーンズランド大学のKathryn Steadmanさんを筆頭著者に5人のオーストラリア人研究者の連名による、休眠特性に対する自然選択についての解説と、ネズミムギについての研究紹介。耕地雑草のネズミムギでは、種子休眠の深さと除草剤耐性に強い相関がある。これは規則的な農薬散布の結果、休眠の浅い個体を淘汰してきた結果と解釈できる。

アメリカ在住の中国人研究者(専門は分子遺伝学)Xing-You Guさんによる、イネ(種子休眠性なし)と雑草稲weedy rice(休眠性あり)の休眠特性と、それに関わるQTLマッピング。休眠に関わる11のQTLsを同定。休眠遺伝子は温帯の雑草稲と熱帯の雑草稲に共通しているらしい。

Jerry Baskinは発芽率に対する近交弱勢・外交配弱勢の影響についてのレビュー。Carol Baskin はEpicotyl Dormancy のレビュー。Epicotyl Dormancyとは、幼根が出てから長い期間を経て(通常何らかの刺激を受けて)から使用が出る現象。秋に発芽(幼根出現)し、ひと冬を越してから春に子葉を出すなど。様々な分類群で認められる。

ベルギーのFilip VandelookとSteven Janssensによるセリ科における胚サイズの進化に関わる淘汰の研究。既知の系統関係とKew gardenのSeed Information Databaseを活用して仮説検証。乾燥地のものほど胚サイズ(E:S比)が大きい等いくつかの仮説が支持された。

アテネ大学のCostas Thanosの学生、Katerina Koutsovoulouさんによる世界のCampanulaceaeの植物を対象にした、発芽に対する光要求性についてのスクリーニング。対象としたのは113taxa(111 species, 26 genera)。すべての種で明条件>暗条件。ただし、暗条件による低下の程度は種ごとに異なり、全体として大きな種子は暗条件と明条件の差が小さい。光要求性のある種子は変温感受性がある場合が多い。対象種にはオープンハビタットを好む種が多いことと整合性がある。

中国科学院のHong-Yuan Maさん。ステップ草原で家畜の飼料としても重要なイネ科植物Leymus chinensisの発芽特性。不透水性のglumeによる厚皮休眠。

北大の近藤先生によるスズランの発芽休眠特性。ひと冬越してから幼根出現、次の冬をこしてから子葉出現する。それぞれに環境刺激(低温)が必要(double dormancy)。種子散布直後には胚(子葉)はとても小さく、幼根出現後に大きくなる。また発芽(幼根出現)は光で阻害される(ただし「暗条件」でも計数のときに受光しているので実質は弱光条件)。

西オーストラリアの研究者・共同研究者による、煙発芽(butenolide, karrikinolideの影響)に関連した発表が続く、Kepczynski Walck, Longの各氏。

6月22日 種子分散や更新ニチェに関する話題

砂漠の植物のデモグラフィー研究で有名なLarry Venableさん。28年間にわたる多種のデモグラフィーデータを使い種子の役割を解説。個体群(種)レベルではBet hedging 説の検証:繁殖成功の年変動と年あたりの発芽率の間の負の相関(繁殖成功が不安定な種は少しずつ発芽)。植生(群集)レベルでは、年によって優占種は変わるが種多様性は比較的安定。頻度依存的な種子捕食の実験的検証(多い種類の種子が捕食されやすい)。環境の年変動は、発芽にも種子生産にも影響するが、応答は種によって異なる(decoupled reproduction)。気候変動が個体数と種組成に及ぼす影響についての理論はややこしかったので原著論文を読んで勉強する必要あり(PNAS, Peter Chessonとの研究)。

レーゲンスブルグ大学のPeter Poschlodさん。局所的な環境勾配に沿った植物の分布が発芽ニチェの違いで説明できるか、という問いに答えるために様々な調査・実験を展開している。氾濫原のバックウォーターポンドやため池では水中から陸上までの環境勾配に沿った典型的なエコトーン植生が成立している。多種について発芽と水分条件の関係を分析すると、冠水域の植物と陸域(ヨシ原)の植物は生育場所と発芽条件がよく対応する。その中間域に当たる泥質裸地(mudflat)の植物は水分条件については幅広く応答する。これらでは光や変温などが重要なシグナルになっている。ポシュロードさんの研究室は学生・共同研究者の発表も多く、とてもアクティブな印象。

イスラエルのMarcelo Sternbergさん。高温-乾燥(気候の年間変動・大)の立地から湿潤(気候の年間変動・小)の立地までをカバーするように数箇所のサイトを設定し、それぞれで雨除けの設置/冠水で人工的に気象条件を制御し、植生と土壌シードバンクの動態を追跡。シードバンク密度は場所間での違いは大きいが年変動は小さい。乾燥地ではshrubが種子集積を促進、湿潤地でのshrubは一年生種の多様性を低下させる。乾燥地では種子の最適条件での発芽率が高く、時間的分散が卓越しているらしい。

中国のLiuさん。内モンゴルの砂丘における土壌シードバンク。安定性の異なる砂丘のそれぞれの、Dune slack (erosion zone)と、Middle windward(erosion and burial zone), Upper windward(Burial zone)で土壌採取。意外にタネあり。

オーストラリアの学生Gujaさん。オーストラリア西海岸の13種の海浜植物を対象に海流散布の可能性。種子の海水への浮遊期間と生存の分析。50%以上の種子が2週間以上浮遊していた種は7種あり、そのうち、浮遊期間に発芽率を失うものは1種のみ。長いものでは70日以上浮遊して発芽率を維持していたものもあった(木質の果実を持つものは長い)。発芽における塩分耐性は様々で、浮遊特性との関連性は薄い(生育適地と関連だろう)。

ブラジルのSilveriaさん、中国のWangさん、スペインのFernandez-Pascualさん、様々な植物種・集団の種子をあつめて、同一条件下の発芽率や発芽速度に対する生育場所やその環境条件、系統群などの効果を検討した研究。しかし、発芽実験の条件が種(集団)ごとの最適条件である保証はなく、デザインに問題があるのでは。むしろ最適条件をきちんと明らかにして、その違いに影響する要因を分析しなければならないのでは。

トロント大学のPeter Katonenさん。いろいろな条件・植物で、fungicide ('Capton') vs. water (control) の条件で種子を埋め(シードバッグ実験)、種子生存の比較研究を展開している。森林のギャップは林床に比べて種子が菌病で死亡。ツガ林内のカエデ林内では、ツガ種子はツガ林内において有意に菌病で死亡(Janzen-Connel 仮説に一致)。倒木上は土壌上に比べて有意に菌病にかかりにくいことなど。面白いデータがたくさん。

Becksteadさん。Cheatgrass (Bromus tectrum)火事後に侵入し、優占する外来一年生。この種子に感染する病原菌(ジェレラリストPyenophora semeniperda)に対する火事の影響。温度では菌の生存可能温度と種子の生存可能温度に大差はない(160℃くらい)。特にCheatgrassが火事によって病気にかかりにくくなるわけではない。

Ken Thomson。マメ科などの硬い種皮の適応的意義は、これまで休眠・発芽特性との関係でのみ論じられてきたが、種子捕食者とも関係するのではないか。カラスノエンドウとハリエンジュの種子とハムスターを用いた実験。マメ科のそれぞれの種子の硬種皮/吸水して柔らかくなったもののそれぞれを、シャーレに入れた砂利の表面上/地中のそれぞれに埋め、ハムスターによる捕食を調べた。砂利の上に置いた処理はどのような条件でもすぐに食べられたが、砂利に埋めた種子は吸水した種子のみが掘り出された。吸水し、種皮が柔らかくなることで何らかの揮発性物質が発生しているらしい。でも、これ自体は昔から言われていたことのような。

チェコの農業試験場の研究員Stanislava Koprdovaさん。節足動物による雑草種子捕食の調査。いろいろなサイズのダンゴムシと雑草種子の組みあわせで捕食可能性を実験している。節足動物による種子捕食はとても盛んで、たとえばArmadillidium vulgareは、ナズナやスズメノカタビラの種子をリターといっしょにいれても積極的に食べる。

6月24日 種子の保全と自然再生

ホノルル大学のWeisenbergerさん。絶滅危惧種の種子の系外保存。このような種子保存プロジェクトは世界各地で始まっている。遺伝子保存のための公的プロジェクトだけでなく、植生再生のニーズから、野生植物の種子採集・保存・播種(種苗化)産業化している。このことは、mid-conference fieldtrip での経験も含めて、今回いろいろ考えさせられた。

Kew植物園のJohn Dickieさん。Kewの種子保存プロジェクトでは、24000種以上の種子を集めているが、約2割の種で発芽条件についての情報が全くない。実験では採集場所・採集時期(散布時期にほぼ対応)と、気候情報(WorldClim)www.worldclim.orgから「あたり」をつけるとのこと。この成果は基礎科学としても面白そうだ。

オーストラリアのKings Park and Botanic GardenのLucy Commanderさん。オーストラリアでは鉱山跡地などを中心に65-876haと様々な規模の植生再生計画がある。野生植物の緑化のためにかなりのコストが掛けられている7kg/ha, 200-3500ドル/kg。340,000ドル(2010)。今後種子にかかるコストが莫大になる。効率のよい種子発芽・再生のため、様々な野生植物の休眠発芽特性の解析が進められている。

2010年1月27日水曜日

D論審査会

浮島湿原(妙岐の鼻)で水文・水質動態を研究したNさんのD論公聴会。
私たちが植物の多様性の面から注目している場所が、水質・水文の面から特別な場所であることが明確に示され、本当に感動した。湿原内で絶滅危惧種が集中分布する場所は、川や湖の水の影響を受けにくく、雨水に近い水質の湿原が維持されやすいような地形的・水文学的条件をもっていることがはっきりした。
物理学と生態学というまったく別のアプローチで研究をしても、真実は一つ、ということか。

物理現象は生態現象よりも予測能力において比べ物にならないほど優れている。水質や水位の変化が生物に及ぼす影響を予測するには、優れた物理学的モデルと組み合わせることが有効だと思った。

2009年10月31日土曜日

勝山城址(栃木県)の自然

氏家(栃木県さくら市)の勝山城址にある「さくら市ミュージアム」で講演をさせていただく。
その後、勝山城址の植生管理について相談。城跡はごく最近まで、地域の人が薪をとったり、堆肥のために落ち葉をとったりする共有地として管理されてきたそうだ。廃城になっても地域の生活をまもってきた森をこれらからどう活用するか。そこに生物多様性の視点をどこまで入れられるか。

勝山城は、鬼怒川のなかでも扇状地の河原の自然がもっともよく残されている場所に隣接している。勝山城址と隣接する河川公園の一帯は、うまく計画すれば森の生物から水辺の生物までを含む保全拠点にもなるだろう。これからの議論が楽しみだ。10/31

2009年7月5日日曜日

カワコンブって?

昨日の渡良瀬フォーラムで聞いた話.
旧谷中村ではお正月の昆布巻きは「カワコンブ」で作っていたそうです.カワコンブは水がきれいで流れが速い川の中に生えるもので,渡良瀬では赤渋沼から流れ出る川にはいっぱい生えていたとのこと.カワコンブってどんな植物でしょう?ご存知の方がいらっしゃいましたら教えてください.

カワコンブの話題も登場した佐々木さんのお話,面白かったなぁ.
地域に特徴的な自然を言い表すには地元の言葉が一番.私が「浅い水域や地下水位が0cm程度の過湿な立地がひろがっている状態が・・・」などとクドクドと説明していた状況は,「シベッチャレ」という一言で表現できるらしい.

川の形状に関する地域名で,蛇行の内周側は「オンマルメ」(おん丸め?),外周側は「フカンド」(深処?),合流部は「ワカサリ」(分さり?)はなんとなく由来も想像できたけど,直線部を「ウタリ」と呼ぶのは,どういう由来なのだろう.

2009年7月4日土曜日

宣伝(自然再生講習会)

まだ空席あります。奮ってご参加ください。(学割つくればよかったかな・・・)
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日本生態学会 第1回自然再生講習会
「あなたにもできる自然再生:生態学の視点から」

主催:日本生態学会
後援:応用生態工学会、日本景観生態学会、日本緑化工学会、
国土交通省、農林水産省ほか
企画:日本生態学会生態系管理専門委員会

日程:2009年8月1日(土曜) 13:30-17:00
場所:東京大学農学部1号館8番教室
定員 200人
参加費2000円

・参加者にはアンケートを提出していただき、その上で受講証明書を発行します。
・自然再生事業関係の書籍展示コーナーを設けました。ぜひ活用ください。

13:30-14:00 矢原徹一(九州大学・日本生態学会長)
「自然再生ハンドブック」について
14:00-14:30 渡辺綱男(環境省) 自然再生事業の進捗状況
14:30-14:40 休憩
14:40-15:30 三橋弘宗(兵庫県立大学/兵庫県立人と自然の博物館)
安室川自然再生事業について
15:40-16:30 津田智(岐阜大学) 小清水原生花園風景回復事業について
16:30-17:00 竹門康弘(京都大学・生態系管理専門委員長)
質疑応答、アンケート集約と閉会挨拶

連絡先 〒240-8501 横浜市保土ヶ谷区常盤台79-7 横浜国立大学
環境情報研究院 松田裕之 matsuda@ynu.ac.jp

参加申込み方法 日本生態学会事務局 course@mail.esj.ne.jp
にメールで氏名、所属、メールアドレスの情報を添えて申し込んでください。返信を受け取った時点で受付終了します。なお、この申し込み情報は、今後の生態学会生態系管理専門委員会の関係行事案内以外には使用いたしません。

自然再生講習会ウェブページ http://risk.kan.ynu.ac.jp/matsuda/2009/090801.html

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日本生態学会生態系管理専門委員会 (2005) 自然再生事業指針. 保全生態学研究. 10: 63-75
同委員会では、現在、「自然再生ハンドブック」を編纂中です。

2009年5月8日金曜日

JBONミーティング

日本での生物多様性観測ネットワーク(JBON)の第一回会合に参加した。既存の様々な生物・生態系調査データを統合的に活用し、ローカル~グローバルまで様々なスケールでの現状把握や予測に役立てる体制を整備しよう、ということがコンセプト。来年名古屋で開かれる生物多様性条約締約国会議で話題になるポスト2010年目標や、その到達度評価といった国際的なニーズもあり、「生物多様性の現状把握」の手法開発とデータベース整備が急速に求められるようになっている。

知らなかった沢山のことを効率よく勉強することができ、とても有益だった。
以下、印象に残った議論メモ。
「様々な活動の生物多様性への影響を評価し、CO2排出権のように、Cap&Tradeされる時代は確実に来るだろう。そのとき、Ecological Footprintは有効な指標となるのではないか。」
「地方分権が進めば河川水辺の国勢調査のような長期モニタリングは継続が難しくなるだろう。」
「IPCCレポートと比べて生物多様性に関するレポートが社会的に権威をもち得ないのは、生物多様性研究者の間での議論の不十分さに一因がある。」
「生物多様性概念を構成する重要な要素である『固有性』の評価手法には課題が多く残されている」

2008年11月22日土曜日

イガイの意外な暮らし

信州大でセミナーがあり山梨大のM先生の深海の生物の身もだえするほど面白かった。

深海の熱水噴出孔や冷水湧出帯に生息するシンカイヒバリガイは、1500kmも離れた沖縄と相模湾の間でも、高い頻度で遺伝子流動があるらしい。また海底にクジラの骨が沈むと、それにほぼ特異的なイガイがつき始めるという。こいつらの分布には分散力はあまり制限要因になっておらず、生息環境さえ整えば「勝手に生えて」くる、カビみたいな生き物なのかな、と思った。でも海流などの影響が強いはずなので、分散も完全に自由ではない。分散様式について質問したが、貝の卵や幼生の分散を調べるのはとても難しく、まだどのような深さの水中を流れているのかもわからないし、海底付近の海流もわかっていないことが多いそうだ。海水をガバッと汲んできて遺伝解析するような方法がそのうちでてくるかもしれない。

イガイの仲間は淡水や岩礁から深海まで、とんでもなく幅広い環境に適応している。深海は太古から環境が変わらなそうだから、深海の方が祖先的なものがいるのかな?と考えていたら、分子系統の結果はどうも逆らしく、浅海から深海に進化しながら分布を拡大したという。それは、白亜紀後期の温暖期に海洋が成層し、海底付近が無酸素状態になったことがあり、いったん深海性の貝類などは絶滅したことがあることが関係しているらしいとのことだった。なるほど、目から鱗。ネットで調べてみたら白亜紀OAE(Ocean Anoxic Event)というらしい。