2008年11月20日木曜日

印旛沼の水位低下実験

印旛沼の湖岸の一部で千葉県が行った実験のことが新聞記事になった.

http://www.47news.jp/CN/200811/CN2008111701000326.html

シードバンクのポテンシャルの高さは霞ヶ浦でも確認されたが,「湖内で」「水位低下によって」再生できたところに新しさがある.

印旛沼の現在の湖岸はほぼ全域が干拓堤なので,霞ヶ浦でおこなったような「堤防の湖側に盛土をして植生を再生する」という方法はあまり薦められない.湖を今まで以上に埋め立てることになるし,工法的にもいろいろと無理をしなければいけなくなるからだ.それよりも本質的なのは,水位と水質の条件を改善して現在の湖内に沈水植物帯を復活させることと,干拓してできた陸地を湿地生物の生息に適した環境に改善することだ.今回記事になった実験は,前者の実現に繋がるものである.
来年は後者に関係した実験もはじまる.

2008年11月18日火曜日

稲刈り後の水田雑草

今日は修士のIさんの調査を手伝って,田んぼの植物を見て歩いた.

稲刈りの後から本格的な冬に入るまで,水田ではたくさんの「雑草」をみることができる.今日の調査でも,多いところでは一枚の田んぼで40から50種が記録された.それらには,かつては氾濫原に生育していたと考えられる攪乱依存種が多く,現在では絶滅危惧種になっているものも多い.

ミズニラとイチョウウキゴケ

2008年11月11日火曜日

豊岡

一昨日までの3日間,豊岡市に出張した.来年度から新しく始める学生実習の下見と打ち合わせが目的である.

コウノトリの野生復帰で有名な豊岡だが,全国各地と同様に近年シカの増加が問題視されているという面もある.たしかに林床は「スッキリ」してしまっているところが多い.農業被害で,地元の方には本当に頭のいたいことだろう.一方,シカの恩恵を受ける植物もいるかもしれない.光をめぐる競争に強い大型の草本が食べられ,同時に土壌が踏み荒らされることで,攪乱依存性の植物のハビタットがつくられるという面もあるのではないか.

シカの個体数管理は必要なのかもしれないが,その場合でも,シカの生態系機能をよく把握した上でやらないと,思わぬ問題を引き起こすだろう.人間の利用のための植物の刈り取り・持ち出しが減少し,物理的な攪乱も減少しがちな里地・里山では,シカによる捕食や踏み付けがけっこう役に立っている場面もあるかも.

五大湖のモニタリング

分担執筆する本の原稿を提出した.
この執筆のために,湖沼の生態系評価指標について少しまとめて勉強した.

生態系の状態をモニタリングするための新しい指標やその妥当性の研究のほとんどは,北米五大湖をフィールドとして行われている.五大湖ではカナダとアメリカの政府により総合的なモニタリングが行われており,その成果は2年ごとに開かれるコンフェレンスとその1年後に発行されるレポートで公開される.レポートは http://www.epa.gov/solec/ から入手できる.これがとーっても充実していて,非常に読み応えがある.

2007年に発行されたレポートでは67の指標を使って湖の環境の現状が解説されている.その中には水質や周辺の開発の状態だけでなく,環境変化に敏感なカエルの個体群サイズの変化とか,侵略的外来植物であるエゾミソハギの動向など,多くの生物指標が含まれる.

沿岸の湿地をことのほか重視している点も,五大湖は先進的だ.アメリカ・カナダの2国にまたがる機関であるThe Great Lakes Commisionが公表した沿岸湿地のモニタリングプラン(http://www.glc.org/wetlands/final-report.html)では,多様な分類群の生物についての指標を,300ページ近い資料で解説している.すごい迫力.

内容のレベルの高さも行政の力の入れ方もたいしたものだが,特に感心するのは,研究と社会のリンクの強さである.五大湖のモニタリングは社会的要請によるものだが,その実施と連動して,指標の開発や妥当性の検討に関する研究が活発化し,Journal of the Great Lakes Researchをはじめとする学術雑誌に公表される.その研究成果はその後のモニタリングに速やかに反映されているようだ.

欧米の保全生物学の論文や研究批評の文章を読んでいると,「evidence based conservation」という表現によく出会う.保全に関する(行政の)意思決定について,科学的根拠を重視しているということだろう.これと対になるニュアンスでpolicy driven conservationという表現が使われているのも見たことがある.「このような研究成果に基づいて判断しました」という姿勢と,「このように決められていたからその通りにしました」という姿勢の違いみたいな感じか.生態系管理のように確実性が低いことを進めるとき,前者の方が理にかなっている.

2008年10月19日日曜日

観察会・参加型調査

今日は霞ヶ浦の湖岸植生再生事業地でフロラ調査をした。
2002年に国土交通省による工事が終了し、それ以降、有志の市民の方々といっしょに植生調査を続けてきた場所だ。市民参加型調査をはじめて5年になるが、ほぼ皆勤賞で参加してくださっている方もいれば、今年初めて参加された方も。

霞ヶ浦の自然・水辺の植物・自然再生など、いくつかのちょっと異なる視点から興味をもってくれた方々と自由に話をしながら植物を見て回る。その後、それぞれのノートを統合してデータを整理する。単純な作業だが、植物好き・生き物好きの方々といっしょに歩きながら、またお昼を食べながら交わすちょっとした会話がとても楽しく、そこをフィールドに研究をする上での励みにもなる。今年は2日ある調査のうちの1日は、国土交通省の課長さんも参加してくれた。参加した方々も、普段はきけない話が聞けたのではないだろうか。

来年からは、再生された湖岸だけでなく霞ヶ浦やその周辺に残された良い湿地を見に行くような観察会・調査も考えたい。自分がそのときに特に面白いと感じている場所・テーマの観察会をするのは、異なる視点からの意見・反応が聞けてとてもありがたい。また、参加してくれた方にもホットな話題がきけるというメリットがあるのではないかと思っている。

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植物学会での講演、学生や自分の研究のための野外調査、早稲田大での後期講義開始、筑波実験植物園での講演、北海道への出張、霞ヶ浦の自然再生事業地での市民参加型植生調査と、前のめりになって予定をこなすような慌しい状態が、ようやく終息した。

今月後半は書き物重視で行こう。締め切りのあるもの、書きかけのものを一通り片付けて、来月は植物学会での議論が記憶にのこっているうちにレッドリスト評価についての検討をいっきにまとめて、関係者にみてもらえるものを作りたい。