(以下、Facebook に投稿した記事の転載です。)
このたび、日本生態学会の雑誌「保全生態学研究」の投稿規定が改訂されました。今回の目玉は「投稿資格の変更」です。これまで、論文の筆頭著者が日本生態学会の会員である必要がありましたが、これからは「著者の一人以上が生態学会員であればよい」ことになります。
この変更は、「生物の保全にかかわる市民・NPO・コンサルタント・行政などの方が中心になって調査結果や活動成果をまとめ、研究者がそれをサポートして論文にする」という形を奨励する意図があります。保全生態学研究では、以前から、原著論文だけでなく、他の地域で参考になる取り組みを紹介する「実践報告」や、貴重な調査報告を残す「調査報告」といった投稿カテゴリーを設けていますが、今後はこれらの報告がますます活性化することを期待しています。「こんな記録をしているんだけど論文になるかな?」というご相談も受け付けております。
基礎科学は英語中心で発展していますが、応用科学では、多様な「現場の人」が使いやすい日本語の論文にも大きな価値があります。保全生態学をもっともっと「使える科学」にしたいです。
ちなみに応用生態工学会の雑誌「応用生態工学」も、先月から、「第一著者あるいは連絡対応著者(corresponding author)が学会員であればよい」という形に規定変更して、以前よりも門戸を広げています。
これらの分野では、わかったことを論文にして公の知識にする「公表の文化」、政策や戦略を策定するときは査読付き論文を活用して文書中に明示する「引用の文化」の両方がまだ未熟です。もっともっと読み書きをがんばりましょう!
保全生態学研究投稿規定はこちら
東邦大学で保全生態学を勉強している西廣淳のブログです。更新は断続的です。頻繁な情報発信はフェイスブックとツイッターでしております。 | Facebook https://www.facebook.com/jun.nishihiro | Twitter https://twitter.com/jnishihiro | 本業のウェブページ http://www.lab.toho-u.ac.jp/sci/env/coneco/
2015年7月25日土曜日
2014年3月23日日曜日
霞ヶ浦導水事業の検証報告書案へのコメント
利根川・霞ヶ浦・那珂川をパイプラインで結ぶ「霞ヶ浦導水事業」は、ダム事業の一つとして「事業検証」の対象となっています。国土交通省による「検証に係る検討報告書(素案)」への意見公募期間は終わってしまいましたが、これから検証結果とそれへの意見が公表され、継続の是非を議論する段階に入ります。
私は下記サイトにも掲載されている「霞ヶ浦導水事業の検証に係る検討報告書(素案)」へのコメントとして以下の内容を提出しました。
http://www.ktr.mlit.go.jp/river/shihon/river_shihon00000163.html
以下が提出したコメントです。
・異なる水系間の連結は、一方に侵入した外来種が他方に分布拡大するリスクをもたらす。外来種の中には農業や漁業に悪影響をもたらすものも多い。たとえば霞ヶ浦や利根川水系に近年侵入している外来植物ナガエツルノゲイトウやミズヒマワリは、強害雑草化し水田農業に被害をもたらす。また霞ヶ浦・利根川水系に蔓延しつつあるカワヒバリガイは、水路や水門等の機能不全をもたらす。今後、新たな外来種や現在認識されていない魚類への病原となる微生物などの移入により、社会・経済的な損失が生じる可能性は否定できない。これらは、流域内の溜池の活用のような水系を連結しない代替案では発生しない導水事業固有のリスクである。生物移入による社会・経済的損失が生じるリスクを最小化するための予防的な観点に立った方策を検討すべきであろう。
・霞ヶ浦や利根川水系で蔓延しつつある外来種カワヒバリガイが導水のパイプラインや途中の施設の内部に大量に付着した場合、施設の機能に障害がでることが予測される。カワヒバリガイが施設に付着した場合の除去の方策やそのためのコストを検討する必要がある。
・生物多様性に与える影響の評価が不十分である。導水に伴う環境改変(上記した生物移入だけでなく、工事に伴う改変や水質・水温が異なる水が流入することによる環境改変を含む)が地域の生物多様性・生態系にもたらす影響を予測し、代替案と比較する必要がある。導水により異なる水系を連結することは、地域の生物相や遺伝構造の改変をもたらす可能性が高い。報告書(素案)では表4.2-24、表4.3-63、表4.4-52において「環境への影響」が言及されているが、そこでの生物への影響についての記述はきわめて抽象的であり、代替案との比較ができる内容ではない。河川水辺の国勢調査など基本的な生物情報は存在するので、それらのデータを用いた解析を進め、具体的に検討して記述する必要がある。
・本資料からは利水参画者が提示した開発量の目標値の妥当性が判断できない。今後の人口や産業の動態予測を踏まえた妥当な予測になっているか検討するためにはより詳細な情報が必要である。資料で示された計画給水量を見る限り、直感的には過大評価と思われる値が多い。
・上記の通り、考慮すべきリスクやコストが十分に検討されておらず、また利水の目標についても疑問がある。本報告書からは、霞ヶ浦導水事業を、水質浄化と利水を目的とした事業として妥当であると判断することはできない。
私は下記サイトにも掲載されている「霞ヶ浦導水事業の検証に係る検討報告書(素案)」へのコメントとして以下の内容を提出しました。
http://www.ktr.mlit.go.jp/river/shihon/river_shihon00000163.html
以下が提出したコメントです。
霞ヶ浦導水事業の検証に係る検討報告書(素案)へのコメント
2014年3月12日
東邦大学理学部 西廣淳
・異なる水系間の連結は、一方に侵入した外来種が他方に分布拡大するリスクをもたらす。外来種の中には農業や漁業に悪影響をもたらすものも多い。たとえば霞ヶ浦や利根川水系に近年侵入している外来植物ナガエツルノゲイトウやミズヒマワリは、強害雑草化し水田農業に被害をもたらす。また霞ヶ浦・利根川水系に蔓延しつつあるカワヒバリガイは、水路や水門等の機能不全をもたらす。今後、新たな外来種や現在認識されていない魚類への病原となる微生物などの移入により、社会・経済的な損失が生じる可能性は否定できない。これらは、流域内の溜池の活用のような水系を連結しない代替案では発生しない導水事業固有のリスクである。生物移入による社会・経済的損失が生じるリスクを最小化するための予防的な観点に立った方策を検討すべきであろう。
・霞ヶ浦や利根川水系で蔓延しつつある外来種カワヒバリガイが導水のパイプラインや途中の施設の内部に大量に付着した場合、施設の機能に障害がでることが予測される。カワヒバリガイが施設に付着した場合の除去の方策やそのためのコストを検討する必要がある。
・生物多様性に与える影響の評価が不十分である。導水に伴う環境改変(上記した生物移入だけでなく、工事に伴う改変や水質・水温が異なる水が流入することによる環境改変を含む)が地域の生物多様性・生態系にもたらす影響を予測し、代替案と比較する必要がある。導水により異なる水系を連結することは、地域の生物相や遺伝構造の改変をもたらす可能性が高い。報告書(素案)では表4.2-24、表4.3-63、表4.4-52において「環境への影響」が言及されているが、そこでの生物への影響についての記述はきわめて抽象的であり、代替案との比較ができる内容ではない。河川水辺の国勢調査など基本的な生物情報は存在するので、それらのデータを用いた解析を進め、具体的に検討して記述する必要がある。
・本資料からは利水参画者が提示した開発量の目標値の妥当性が判断できない。今後の人口や産業の動態予測を踏まえた妥当な予測になっているか検討するためにはより詳細な情報が必要である。資料で示された計画給水量を見る限り、直感的には過大評価と思われる値が多い。
・上記の通り、考慮すべきリスクやコストが十分に検討されておらず、また利水の目標についても疑問がある。本報告書からは、霞ヶ浦導水事業を、水質浄化と利水を目的とした事業として妥当であると判断することはできない。
以上
2013年11月3日日曜日
みなかみで萱刈り
11月2日 みなかみで草原管理・保全の活動をしている「森林塾青水」さんにお誘いいただき、萱刈に。
ほんとうに気持ちの良い草原でした。

ハバヤマボクチ
やってみるとけっこう難しい「ボッチ」づくり。これは師匠の模範実演。
かっこいいなあ。
たくさんできました。
鎌で刈ると、ススキ以外の植物を混ぜないように丁寧な作業になります。また草刈り機で刈り取るよりも、高い位置で刈りがちなります。そのせいで、草刈り機でやるよりもロゼットや実生がダメージを受けにくいと感じました。鎌苅の方が種多様性が増すように思います。
みなかみは利根川の水源域です。この水が流れ流れて、いつも見ているあの川になると思うと感慨があります。
ツルリンドウのたね(実は食べてみた)
ほんとうに気持ちの良い草原でした。
ハバヤマボクチ
やってみるとけっこう難しい「ボッチ」づくり。これは師匠の模範実演。
かっこいいなあ。
たくさんできました。
鎌で刈ると、ススキ以外の植物を混ぜないように丁寧な作業になります。また草刈り機で刈り取るよりも、高い位置で刈りがちなります。そのせいで、草刈り機でやるよりもロゼットや実生がダメージを受けにくいと感じました。鎌苅の方が種多様性が増すように思います。
みなかみは利根川の水源域です。この水が流れ流れて、いつも見ているあの川になると思うと感慨があります。
ツルリンドウ
ツルリンドウのたね(実は食べてみた)
2013年10月2日水曜日
外来植物管理の打ち合わせ
きょうは、茨城県、市町村、土地改良区、国交省、農環研、県立博物館の関係者が一堂に会して、新利根川のナガエツルノゲイトウ駆除の打ち合わせをしました。私も2限の講義を終えてすぐ、外来植物を研究している2人の卒研生と一緒に駆けつけて合流しました。ナガエは、霞ヶ浦の流入河川である新利根川には侵入しているものの、まだ霞ヶ浦には本格侵入していません。放置すれば、生態系への影響だけでなく、農業被害や通水阻害をもたらす外来種です。現場では、近所のおじさんも顔を出して「それを駆除するなら力を貸すよ」と。いくつかのハードルはあるものの、なんとか早期対策を実現したいものです。
2013年9月26日木曜日
全国の「湖沼モニタリング人」の集会
きょうは国立環境研究所+全国20道県の環境研究所による、「湖沼の生物多様性・生態系評価のための情報ネットワーク構築 全体会議」に参加しました。水質のモニタリングは定型的・組織的 に行われていますが、生物を対象にした湖沼モニタリングはほとんど行 われておらず、環境省モニタリングサイト1000も、湖沼は4つ しか行われていません。
今後の組織的なモニタリングやデータの共有のため、具体的な調査 方法の相談をしました。私は水草調査のマニュアル案をお配りし、 達古武沼で水草の採集と標本作製の概要を実演しました。まずは「 この指とまれ」で、できる地域で始めてもらい、意見をもらいなが ら、より広く長期的に実施できる調査方法をつくっていきたいと思 います。
全国各地で湖沼モニタリングをしている方々の事例紹介は、とても勉強になりました。湖はそれぞれ個性がありますが、生じている問題には共通性があります。ここ数年、いろいろな湖をみる機会に恵まれているので、色々な方の発表を実感を伴って聴くことができました。
今後の組織的なモニタリングやデータの共有のため、具体的な調査
全国各地で湖沼モニタリングをしている方々の事例紹介は、とても勉強になりました。湖はそれぞれ個性がありますが、生じている問題には共通性があります。ここ数年、いろいろな湖をみる機会に恵まれているので、色々な方の発表を実感を伴って聴くことができました。
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