岩波ブックレット「<生物多様性>入門」鷲谷いづみ著を読了。60ページのブックレットなので昨日の帰宅電車と今日の通勤電車で読み終わってしまった。
生物多様性とは何か・なぜ守るのか・何が問題なのか、の概要を知るうえで、広くお薦めできる一冊だと思う。知っておくべき重要な点が広くカバーされている。教養の授業や市民講座などのテキストに最適だろう。非専門家向けに書かれているが、GBO3での総括の概要や生物多様性基本法など、最新のトピクスも入っていて、「知っている人」の情報整理にも役立つ。
生物多様性の価値を生態系サービスの面から説明する本は他にも出てきているが、この本は適応進化を通して得られた「情報」の価値が強調されているのが特徴である。生物の絶滅は膨大な時間をかけて得られた「戦略」情報の喪失を意味する、という視点は、「生態系サービス」の中に入れられなくはないが、これまであまり強調されてこなかったのではないか。
テキスト的な性格を意識してか、全体としては標準的な内容が無難に書かれている印象だが、チクリと一刺しした部分も。「昨今、地球温暖化や外来種問題に関して、必ずしも十分な専門的知識をもたない「専門家」の危機の否定・軽視の発言がもてはやされる傾向がある。人々がそれらに同調しがちなのは、まひした心に、それらが心地よく響くからだろう。」以上、抜粋。とても重要な指摘だと思う。気候変動の問題でも標準的な解説書よりも否定的な本の方がよく売れるという。様々な見解が発表されるのはよいことだが、「内容が重くて辛い」「理屈を追うのが面倒」という心理のせいで科学的で丁寧な解説が疎まれ、非科学的・短絡的な主張が跋扈するのは危険なことだ。